交通事故 被害者専門弁護士事務所

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5.神経系統・胸腹部・脊柱

  • 5-1 神経系統
  • 5-1-1 中心性頚髄損傷
  • 5-1-2 腰部捻挫・外傷性腰部症候群
  • 5-1-3 外傷性腰部症候群の神経症状
  • 5-1-4 環軸椎脱臼・亜脱臼
  • 5-1-5 上位頚髄損傷(C1C3
  • 5-1-6 頚椎症性脊髄症
  • 5-2 胸腹部
  •  
  • -3 脊柱
  • 5-3-1 骨折の分類
  • 5-3-2 背骨の仕組み
  • 5-3-3 脊柱の圧迫骨折(その1)
  • 5-3-4 脊柱の圧迫骨折(変形障害)
  • 5-3-5 脊柱の圧迫骨折(運動障害)
  • 5-3-6 脊柱の破裂骨折
  • 5-3-7 腰椎分離・すべり症
  • 5-3-8 後縦靱帯骨化症(OPLL
  • 5-3-9 腰部脊柱管狭窄症

5-1 神経系統

5-1-1 中心性頚髄損傷

頚髄は脊髄の最も高位の部位を指し、頚髄損傷とは脊髄損傷の一種です。そして、一般的な脊髄損傷は、大きな外力が脊椎に加わることで骨折や脱臼となり、これによって生じます。

ところが、中心性頚髄損傷は、骨折などは認められないのに、運動麻痺、疼痛、ビリビリするような両上肢や手指の痺れ(タンスの角に肘をぶつけたときに感じるようなもの)の症状を引き起こします。中心性頚髄損傷の原因については、頚部が急激に後ろに反り返るといった過伸展によるものと考えられています。

また、この症例は、変形性脊椎症、脊柱管狭窄症が認められる中年以降の方が、比較的軽微な受傷機転(例えばちょっとした追突など)によって発症することも報告されています。

頚髄の断面図です

右の断面図で示す通り、上肢を支配する神経伝達路は頚髄の中心寄り、下肢に関しては外側寄りに位置すると考えられているため、中心部が損傷を受けると、上肢の症状が重く出現します。頚髄の辺縁部は周辺を取り囲む多くの血管によって栄養を受けていますが、中心部は中心動脈から枝分かれした毛細血管から栄養を受けているだけです。このことから、頚髄中心部は損傷を受けやすく、回復しにくいという特徴があります。

以上のとおり、中心性頚髄損傷では、上肢の症状が強く、運動麻痺、疼痛、ビリビリするような両手や手指の痺れ、パジャマのボタンを留めることができない等、手指の巧緻運動障害を引き起こします。まれに、膀胱障害が認められることもあります。神経学的検査では、深部腱反射が亢進(過剰に強くなること)となり、(下図左から)ホフマン反射、トレムナー反射、ワルテンベルグ徴候では病的反射が出現し、両上肢は筋萎縮でやせ細ります。

MRIのT2強調画像です

左図は、交通事故被害者の方の中心性頚髄損傷のMRI T2強調画像です。C6右横の脊髄に白い高輝度所見が確認できます。この被害者の方は、脊髄症状で7級4号が認定されました。 

※T1強調画像とは、体内の脂肪分を強調して撮影する方法で、椎間板の突出や出血の状態を確認するのに有意な撮影方法です。全体的に黒っぽく、コントラストがハッキリして見えます。

 ※T2強調画像とは、体内の水分を強調して撮影する方法で、髄液や膀胱内の状態を確認するのに有意な撮影法であり、全体的に白っぽくぼやけているような印象を受けます。

 治療方法としては、受傷直後、48~72時間以内に、入院下でステロイドを大量投与すれば、効果が得られるとして、1997年から厚生労働省の認可のもとに臨床使用が開始されています。しかしながら、確実性に疑問があり、副作用の検証がなされておらず、若年で再生力の強い患者以外では効果が薄いとの報告もなされています。やはり、脊髄損傷の場合、劇的な改善は困難であると考えられます。症状固定に関しては、非可逆性の脊髄損傷ですので、通常は受傷後6ヵ月で固定とします。

 中心性頚髄損傷における後遺障害のポイントは以下のとおりです。

(1)診断書の傷病名は信用できない

中心性頚髄損傷と診断されていても、多くの場合、MRI検査で高輝度所見の得られない頚椎症、中には単純ムチウチで症状過多のものも混在しています。

 (2)MRI撮影が重要

中心性頚髄損傷の傷病名があれば、早期のMRI撮影で高輝度所見を確認しなければなりません。MRI画像に現れる中心性頚髄損傷は、脊髄損傷ですから、ムチウチのカテゴリーにはなりません。

さらに、後遺障害の立証では、後遺障害診断書以外に、「脊髄症状判定用」 の用紙を提出し、肩・肘機能、手指機能、下肢機能、上肢・下肢・体幹の知覚機能、膀胱機能、日常生活状況について、検査と結果の記載をお願いする必要があります。

 (3)後遺障害等級の認定の仕方

等級認定は、神経系統の機能の障害に基づき審査され、障害の程度により、9級10号、7級4号、5級2号が選択されます。膀胱機能障害は、併合の対象となります。

5-1-2 腰部捻挫・外傷性腰部症候群

 脊柱(いわゆる背骨)は合計33個の椎骨(頸椎(7個)、胸椎(12個)、腰椎(5個)、仙椎(5個が癒合して「仙骨」を形成)、尾椎(2~5個が癒合して「尾骨」を形成)で構成されています。この5個の腰椎は、それぞれ関節包につつまれた椎間関節があり、椎間板(椎間円板)、靱帯、及び、筋肉で連結されています。

追突などの交通事故受傷により、腰椎が過伸展状態となり、これらの関節包、椎間板、靱帯、筋肉などの一部が引き伸ばされ、あるいは断裂して、腰部捻挫を発症します。

頚部捻挫と腰部捻挫は、診断書に併記されていることが多いのですが、後遺障害の対象として注目されるのは、圧倒的に頚部捻挫、外傷性頚部症候群です。腰部捻挫は椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症の基礎疾患がある被害者の方に多発する傾向で、このケースでは重症化し、しばしば固定術に発展することがあります。外傷性腰部症候群における後遺障害のポイントは以下のとおりです。

(1)外傷性腰部症候群の場合における後遺障害等級(14級9号)認定の要件

「外傷性腰部症候群に起因する症状が、神経学的検査所見や画像所見から証明することはできないが、①受傷時の状態や②治療の経過などから③連続性、一貫性が認められ、説明可能な症状であり、④単なる故意の誇張ではないと医学的に推定されるもの。」

が、後遺障害等級14級9号が認定されるための要件です。

(2)認定要件における各文言のご説明

①受傷時の状態

「受傷時の状態」とは、事故発生状況のことであり、やはり、事故発生時にそれ相応の衝撃がないと後遺障害等級は認定されません。車VS車の衝突の場合、概ね修理代金が30万円以上であることが一つの目安となります。バンパーの交換程度では、後遺障害が生じるような事故とは考えられません。

 

②治療の経過

これに関しては、事故直後から、腰部痛以外に、左右いずれかの下腿~足趾にかけて脱力感、しびれ感の神経根症状が認められることが肝要です。もっとも、14級9号の場合には、露骨で目立つようなしびれ感がないこともあります。そのような場合には、「下腿~足趾にかけての脱力感、だるさ感、重さ感」についても確認します。単なる腰部痛とそれに伴う胸腰椎の運動制限では、後遺障害等級は認定されません。また、事故から数か月を経過して発症したものに関しては、一般的に事故との因果関係が否定されてしまいます。

 

③連続性、一貫性

「連続性、一貫性」に関しては、被害者の方が事故直後から、上記のような症状を訴え続け、リハビリ通院を続けているかがチェックされます。整形外科・開業医で1か月に10回以上通院されることが一つの目安となります。どんなに症状を訴えても、6か月間で30回程度しか整形外科等に通院されていないと、後遺障害等級の認定は困難になります。

さらにここでのポイントは、整骨院で施術を受けたものは、上記の「通院」には該当しないということです。整骨院における施術は「医業類似行為」であり、治療とはみなされないのです。したがって、「施術」は治療実績として評価されません。

 

④単なる故意の誇張ではない

これは、被害者の「常識」と「信憑性」が判断されることになります。賠償志向が強い、発言が過激、症状の訴えが大袈裟、通院にタクシーを利用、長期間の休業と休業損害の請求など、あまりに保険会社が非常識と判断したときは、後遺障害等級の申請しても、認められなくなる可能性が高くなります。

 

(3)まとめ

以上をまとめますと、

「腰部捻挫(外傷性腰部症候群)に起因する症状が、神経学的検査所見や画像所見などから証明することはできなくても、痛みや痺れを生じさせるような事故に遭って自覚症状があり、その原因を突き止めるために早期に医師の診察を受けて、MRIの撮影も受けており、その後も痛みや痺れが継続していることが通院先や通院実日数から推測ができる。事故から現在までを総合して考えるのであれば、これは、後遺障害として認めてやるべきであろう。」

ということになります。

5-1-3 外傷性腰部症候群の神経症状

脊椎(背骨)は、椎骨(頸椎、胸椎、腰椎、仙椎、尾椎)が椎間板(椎間円板)というクッションをはさんで、頚部~尾骨まで連なったものです。

頚椎はC、胸椎はT(Th)、腰椎はL、その下の仙椎はSと表示します。

腰椎は5つの椎骨が椎間板を挟んで連なっており、椎骨の空洞部分には脊髄(部位によって、頚髄、胸髄、腰髄、仙髄、尾髄に分かれます。)が走行しています。

椎間板、脊椎を縦に貫く前縦靭帯と後縦靭帯、椎間関節、筋肉などで椎骨はつながれています。また、椎骨の中で脊髄が走行する部分を椎孔といい、椎孔がトンネル状に並んでいるのを脊柱管と呼びます。

脊髄神経から枝分かれした神経根は、それぞれの椎骨の間の椎間孔と呼ばれる部分を走行して、身体各部に通じています。

外傷性腰部症候群で注目すべきは、それぞれL3/4、L4/5、L5/S1の間から出ている神経根です。といいますのも、これらの間から出る左右6本の神経根は、それぞれの下肢を支配しているからです。多くの場合、腰椎間の椎間板ヘルニアにより、これらの神経根が圧迫され、下肢に様々な神経症状を引き起こします

L3/4間の椎間板ヘルニアでは、L4神経根が障害され(L3/4間からはL3神経が出ていますが、L4神経根が圧迫されることが多数です。)、大腿前面、下腿内側面に知覚障害が出現、膝蓋腱反射は減弱、つまり大腿四頭筋・前脛骨筋が萎縮し、大腿神経伸展テスト(FNS)が陽性となります。

ラセーグテスト

L4/5の椎間板ヘルニアでは、L5神経根が障害され(上記と同様に、L4神経根ではなく、L5神経根が圧迫されます。)、下腿前外側、足背に知覚障害が出現、長母趾伸展筋の筋力低下、大臀筋の萎縮が見られ、ラセーグテストは陽性となります。

L5/S1の椎間板ヘルニアでは、下腿外側、足背、足底外縁に知覚障害が出現、アキレス腱反射は低下・消失し、腓腹筋および腓骨筋力が低下して、つま先立ちが不可能となります。上の図の右図のラセーグテストでは、陽性所見を示します。外傷性腰部症候群における後遺障害のポイントは以下のとおりです。

(1)医師に因果関係を求めない

「L4/5にヘルニアが認められますが、事故によるものではありませんね」被害者の方の主治医の所見として、このようなものが多々見られます。被害者の方としては、「事故から腰痛が出現し、右足もしびれているのに、事故によるものではないとはどういうこと?」と思われます。しかしながら、この医師の見解自体は誤りではありません。

一般的に、脊椎の変性は18歳頃から始まると言われています。したがって、30歳を超えれば、ほぼ全員の被害者の方に、大なり小なりの年齢変性が認められます。この年齢変性の代表は、腰椎椎間板ヘルニアで、多くは末梢神経である神経根を圧迫しています。そして、この末梢神経である神経根は、膜で覆われた状態で存在しています。

そのため、事故前にヘルニアが存在していても、多くは無症状ですが、交通事故の衝撃で、この膜に傷がつくと、支配神経の領域に、痛み、痺れなどの神経症状が出現し、苦しむことになります。そして、この症状こそが、後遺障害の対象となるのです。

 後遺障害等級14級9号レベルであれば、傷ついた膜の修復がなされると、多くの場合無症状に戻ります。時間はかかりますが、痛みや痺れが残存することはありません。裁判においても、「年齢相応の変性は、素因減額の対象にしない」とされていますので、事故前からヘルニアが存在していたことについては、問題になりませんしたがって、被害者の方は、上記のような医師の見解について、気にされる必要はありません。

 (2)早期のMRI撮影

早期のMRI撮影で、神経根に浮腫が確認できることがあります。これが確認できれば、腰部椎間板ヘルニアに関し、外傷性であると言えます。レントゲン画像やCT画像は骨を見るためのもので、神経根は写りません。神経根が確認できるのは、MRIだけです。したがって、受傷2か月以内に、MRI撮影をされることが重要になります。

 また、受傷後に撮影したMRI画像で、L4/5/S1の神経根の通り道が狭まっている、もしくは明確に神経根が圧迫を受けているということが確認できたときは、自覚症状に一致した画像所見が得られたということで、やはり、後遺障害等級の獲得へとつながります。

 (3)6か月間で、4つの要件を整える

これは、前項の「腰部捻挫・外傷性腰部症候群」と同様で、

① 30万円以上の物損があったこと

② 事故直後からの症状の出現、早期のMRI撮影

③ 6か月間の真面目な整形外科通院

④ 紳士的、常識的で信憑性が感じられる療養態度

 の4つの要件が揃えば、後遺障害等級を獲得できる可能性が相当高まります。

5-1-4 環軸椎脱臼・亜脱臼

上図のように、頚椎は正面から見ると7つの椎体の連なりであり、C1(環椎)とC2(軸椎)は独特な形状をしています。軸椎には歯突起があり、軸を中心に環軸が回転することで、頚部を左右に回転させることができます。軸椎以下の頚椎は、椎間板という軟骨で椎体間が連結されており、これにより、頚椎がしなるように動くことができるのです。

環軸関節の位置は、正面では、口のあたりに位置しています。環椎の上部に頭蓋骨が乗っており、この関節の支えで頚部は左右に動くのです。下左図のレントゲン側面像では環椎が前方向に脱臼しているのが確認できます。右は、整復後、スクリューで固定されたものです。

環椎と軸椎とは、7つある頚椎の、最上部と2番目の椎体骨で、頭蓋骨と接しています。交通事故では、後頭部方向から大きな外力が加わり、過屈曲が強制されることで、軸椎の歯突起が骨折し、環軸椎亜脱臼・脱臼が発症するというのが多くのパターンです。

転位が大きく、環椎と軸椎を結合する関節が完全に外れてしまったものを環軸椎脱臼、外れかかった状態で4mm以上の転位があるものを環軸椎亜脱臼と呼んでいます。

転位のレベルによっては、脊柱管の中を走行する脊髄が圧迫・損傷することがあり、脊髄の圧迫症状として手足の運動麻痺、感覚麻痺、呼吸障害、膀胱・直腸障害などが生じ、後頭神経の圧迫症状として後頚部痛、椎骨動脈の圧迫に伴う強い眩暈を発症し、坐位ができなくなります。

環軸椎亜脱臼に対しては、保存療法として、ソフトカラー、フィラデルフィアカラーによる固定がなされていますが、脊髄症状を示す重症例では手術が行われ、現在では、上記写真のようにスクリュー固定が行われています。

 

環軸椎脱臼・亜脱臼における後遺障害のポイント

(1)後遺障害の立証

脊柱の変形障害、脊柱の運動障害、神経系統の機能障害の3方向から検証していくことになり、立証作業としては高度なものが要求されます。

①脊柱の変形障害

環椎または軸椎の変形・固定により、次のいずれかに該当するものは、通常、後遺障害等級8級2号となります。

A 60°以上の回旋位となっているもの

B 50°以上の屈曲位または60°以上の伸展位となっているもの

C 側屈位となっており、レントゲン画像等により、矯正位の頭蓋底部両端を結んだ線と軸椎下面との平行線が交わる角度が30°以上の斜位となっていることが確認できるもの

このうち、AおよびBについては、軸椎以下の脊柱を可動させず、当該被害者にとっての自然な肢位で、回旋位または屈曲・伸展位の角度を測定します。

 

②脊柱の運動障害

頭蓋・上位頚椎間に著しい異常可動性が生じたものは、後遺障害等級8級2号となります。

 

③神経系統の機能障害

環軸椎の脱臼骨折で固定術が実施される背景には、脊髄損傷を最小限にする目的があります。術後の被害者に、上・下肢の麻痺、強烈な痺れ、上・下肢の疼痛、排尿障害など、重篤な脊髄症状が残存していれば、神経系統の機能障害で後遺障害等級の獲得を目指す必要があります。障害の程度により、後遺障害等級9級10号、7級4号、5級2号が選択されています。膀胱機能障害は、併合の対象となります。

後遺障害の立証では、後遺障害診断書以外に、「脊髄症状判定用」 の用紙を提出し、肩・肘機能、手指機能、下肢機能、上肢・下肢・体幹の知覚機能、膀胱機能、日常生活状況について、医師の方に検査と結果の記載をお願いしなければなりません。排尿障害は、ウロダイナミクス検査で立証することになります。

弊所では、事前に脊髄症状のチェックを行い、日常生活状況については、被害者の職業上の具体的な支障を記載した書面を主治医に提示しています。

 

(2)専門医の選択

整形外科では、4mm程度の亜脱臼はほとんど見落とされることが多く、立証は、脊椎・脊髄の専門医にお願いしなければなりません。

5-1-5 上位頚髄損傷(C1C3

脊髄損傷の部位

障害の内容

C5より上

呼吸麻痺,しばしば死亡

C4/5、またはC4より上

完全な四肢麻痺

C5/6の間

下肢の麻痺はあるが、上肢の外転、屈曲は可能

C6/7の間

下肢、手首、手の麻痺があるが、肩関節の運動および肘関節の屈曲は通常可能

Th1より上

横断損傷があれば、縮瞳

Th11/12の間

膝の上下の下肢筋麻痺

Th12L1

膝より下の麻痺

馬尾

反射低下性または無反射性の不全麻痺が下肢に生じ、通常は神経根の分布域に痛みと触覚過敏が生じる

S3/4/5

腸および膀胱機能の完全な喪失

上記は、脊髄の損傷部位と障害の大雑把な分類を示したものです。脊柱に強い外力が加えられることにより、脊椎を脱臼・骨折し、脊髄損傷が生じます。本項では、このうち、上位頚髄損傷、すなわち、C1~C3に限局した横断型頚髄損傷を解説します。

C1/2については、前項で環軸椎の脱臼・骨折・亜脱臼を説明していますが、これにとどまらず、C1/2ないしC2/3において横断型頚髄損傷を来すと、肋間筋および横隔膜の運動を支配している神経が破断し、自発呼吸ができなくなります。これは、肋間筋および横隔膜の運動により肺呼吸がなされているためです。

この部位に横断型頚髄損傷を発症すると、四肢体幹麻痺に加え、自発呼吸の麻痺が生じ、人工呼吸器、レスピレーターに頼ることになります。気管切開により、装着中は声を出すことができず、自力で排痰も不可能、四肢は全く動かず、排尿・排便のコントロールもできません。基本的には、徐々に循環不全となり、死に至ります。

横断型脊髄損傷はMRIで立証することができますが、日常生活の全面で、全介護が必要な状態であり、後遺障害等級は別表Ⅰの1級1号となります。

脊髄=中枢神経系は末梢神経と異なり、非可逆性で損傷すると、現在の医療では修復・再生することはできません。

5-1-6  頚椎症性脊髄症


 

頚椎は、18歳頃から、年齢とともに変化・変性していきます。具体的には、椎間板の水分が少しずつ蒸散し、弾力を失ってクッションの役割が果たせなくなり、椎骨同士が直接的に擦れ合って変形し、骨の配列の形が変化・変性していきます。

 一般的に、頚椎に年齢的な変化・変性が起こることを頚椎症もしくは変形性頚椎症と呼びますが、これ自体は誰にでも生じるものであり、疾患と言えるものではありません。

しかしながら、変形性頚椎症の進行により、脊髄や神経根が圧迫され、痛み、痺れ、麻痺が出てくると、頚椎症性脊髄症あるいは頚椎症性神経根症という病名、疾患となります。頚椎の中には、脊髄・中枢神経と神経根・末梢神経が通っています。脳から脊髄が下行し頚椎の中に入り、神経根を介して手に神経が出て行きます。さらには、脊髄は頚椎を走行して、足の方へ下行していきます。

 頚椎症性神経根症では、脊髄から外へ出てきた神経根という神経が圧迫されるために、手のしびれ、手の痛み、頚部~肩、腕、指先にかけての痺れや疼痛、そして、手の指が動かしにくいなどといった、上肢や手指の麻痺の症状が出てきます。脊髄は圧迫されていないので、上肢の症状だけが出現します。

 一方、頚椎症性脊髄症では、脊髄が圧迫されるので、圧迫部位より下の手・足の症状、箸が持ちにくい、字が書きにくい、ボタンがはめにくいなど、手指の巧緻運動が困難となり、下肢が突っ張って歩きにくい、階段を降りるとき足ががくがくする、上肢の筋萎縮、脱力、上下肢および体幹の痺れ、症状がさらに進行すると膀胱直腸障害も出現します。

【上左図】受傷時のMRIでは、C4/5/6/7でヘルニアが脊髄を圧迫しています。【上右図】手術後のMRIでは、脊髄の管路が保たれています。

 頚椎症性神経根症では、ほとんどで保存療法が選択されています。痺れに対しては「リリカ」という薬が処方され、疼痛が強いときは、ステロイドホルモンの内服が投与されます。就寝時には、頚部を前屈させる枕を使用、頚部を後屈させないように矯正します。安静加療と内服で、症状は徐々に改善していきます。頚椎症性脊髄症では、手術が選択され、前方除圧固定術という術式が一般的に採用されますが、3椎以上の頚椎に変形が生じているような場合には、椎弓形成術という術式が採られることもあります。

 

頚椎症性脊髄症における後遺障害のポイント

 (1)頚椎症性脊髄症に至らない変形性頚椎症の場合

保険会社は、変形性頚椎症については、「年齢変性であり、事故とは無関係である」と主張します。しかしながら、医学的には、先にも説明したとおり、変形性頚椎症は、一定の年齢に達すれば誰にでも認められるもので、疾患、つまり病気ではないと判断しています。また、東京・名古屋・大阪などの地方裁判所では、年齢相応の変性は、素因減額の対象にしないとも判断しています。要するに、事故前に症状がなく、通常の日常生活をしており、頚椎症で通院歴がないのであれば、事故後の症状は、事故受傷を契機として発症したと考えればいいのです。

 (2)頚椎症性脊髄症における立証

通常、3椎以上の頚椎に椎弓形成術を受けたものについては、後遺障害等級11級7号が認定されます。さらに、脊髄症状に改善がなければ、神経系統の機能障害で後遺障害等級9級10号、7級4号が認定される可能性もあります。これらの症状につき、「事故との因果関係なし」とされないようにするためには、受傷後2か月以内に撮影されたMRIで頚椎の変性状況を検証し、年齢相応の変性かどうかについての主治医の診断書を取得しておくことが重要です。これでも不十分と思われるときは、放射線科の専門医に年齢相応の変性であるかどうか、鑑定を依頼して、鑑定書を添付します。

 

(3)素因減額

被害者の方の頚椎の変性が大きく、被害者の方が事故以前から頚椎症性脊髄症に罹患していたことが原因であると診断されたときには、素因減額の対象となります。獲得した後遺障害等級に基づく損害賠償金額も、それにより減額されます。例えば、交通事故により後遺障害等級11級7号が認定され、それに基づく損害賠償金が1,000万円と算定されたとしても、かかる後遺障害に被害者の方の既往の頚椎症性脊髄症が50%寄与していたということになれば、上記賠償金も50%減額され、500万円ということになります。

5-2 胸腹部

5-3 脊柱

5-3-1 骨折の分類

交通事故の外傷による骨折は、多くは、鎖骨、肋骨、指骨、鼻骨、尾骨、橈骨、尺骨、脛骨、腓骨、脊椎骨、頭蓋骨で発生します。本項では、骨折の分類についてご説明します。

 (1)開放性/閉鎖性による分類

体内で骨折が起きているものを単純骨折(閉鎖骨折)、骨折した骨が皮膚を突き破り体外に露出しているものを複雑骨折(開放骨折)と呼びます。開放骨折では、骨髄炎等の感染症の危険が高く、単純骨折に比較して重傷です。一般的には、折れ方が複雑な骨折をもって複雑骨折と思われがちですが、折れ方が複雑な骨折については、正式には「粉砕骨折」、「破裂骨折」などと呼ばれます。したがって、骨折した骨が皮膚を突き破り体外に露出しているものについては、誤解を避けるためにも、複雑骨折ではなく、開放骨折と呼んだ方がよいでしょう。

 

(2)骨折の方向による分類

骨折の形状により、下図に示すように、横骨折、縦骨折、斜骨折、粉砕骨折、螺旋骨折と呼ばれます。

(3)骨折の部位による分類

①骨幹部骨折 

鎖骨、上腕骨、前腕骨、大腿骨、脛・腓骨の真ん中部分の骨折です。

 

②骨端部骨折 (遠位端骨折と近位端骨折)

上・下肢では、体幹に近い方の骨端を近位端、遠い方の骨端を遠位端といい、体幹部では口に近い方の骨端を近位端、肛門に近い方の骨端を遠位端といいます。

 

③関節骨折

肩関節の脱臼骨折、膝関節の高原骨折(プラトー骨折)、股関節の後方脱臼骨折などが典型例です。

 

(4)外力による分類

①せん断骨折

骨の長軸に対して垂直方向に力が働いたことにより生じた骨折で、横骨折が典型例です。

②圧迫骨折

椎体骨に発生する骨折で、上下方向に過度に圧迫されたことにより生じた骨折です。

③捻転骨折

骨に対し、捻る力が働いたことにより生じた骨折で、螺旋骨折が典型例です。

 ④屈曲骨折

骨に対し、折り曲げる力が働いたことにより生じた骨折で、二重骨折など複合骨折が典型例です。

 ⑤剥離骨折

骨に対しては、外力が働いていないが、筋・腱・靭帯などの牽引力によって、その付着部の骨が引き裂かれて生じた骨折のことです。 靱帯の付着部が剥がれただけでも剥離骨折と呼んでいます。

 その他に、【骨折の原因による分類】として、①外傷骨折、②疲労骨折、③病的骨折があり、【完全性による分類】として、完全骨折と不全骨折と言われるものがあります。不全骨折とは、骨が連続性を失わない状態の骨折のことで、亀裂骨折や、骨膜に損傷がない骨膜下骨折が典型例です。

 最後に、先に述べた粉砕骨折と破裂骨折についてご説明しますが、まず、粉砕骨折については、骨折部位が3つ以上の骨片に分離したときにこの傷病名がつきます。「粉々に骨折した」という意味ではありません。次に破裂骨折についてですが、下図のように、前後の椎体骨が圧迫骨折し、椎体の後方部が突出して脊柱管を圧迫している損傷のことで、骨が破裂してしまったというものではありません。

5-3-2 背骨の仕組み

背骨は、医学的には「脊柱」と呼ばれるもので、上から7個の頚椎、12個の胸椎、5個の腰椎、及び、仙骨(5個の仙椎が癒合したもの)、尾骨(2~5個の尾椎が癒合したもの)で構成されています。

上図のとおり、脊柱は、正面からはまっすぐに見えますが、横断面では、ゆるやかなS字状のカーブをしています。この脊柱には3つの役割があり、1つ目は身体を支える柱としての役割、2つ目は体幹を前後左右に曲げる、捻ることができる運動機能の役割、そして、3つ目は、脊髄、中枢神経を脊柱管で保護する役割です。

 脊柱を構成している椎体骨は、前方部の椎体、後方部の棘突起、これらを繋ぐ部分(椎弓、上関節突起、下関節突起、横突起など。頸椎、胸椎、腰椎によって異なります。左上図は頸椎の断面図です。)の3つの部位で構成されており、中央部に脊髄、馬尾神経が通る椎孔が形成されています。

椎体と椎体の間には椎間板(椎間円板)が挟まり、互いに連なって柱状になっています。椎間板は、椎体と椎体の間に挟まっている板状の軟骨組織で、弾力性の高い構造であり、体を動かしたときの衝撃を吸収するクッションの役目を果たしています。椎間板の働きにより、身体を前後左右に曲げたり、ねじったりすることができるのです。 

椎間板の中央には髄核と呼ばれる水分を多く含むゼラチン状の柔らかい物質があります。その周囲を囲むように線維輪と呼ばれる組織が何層にも重なって髄核を守っています。椎間板は上下の椎骨から常に圧力を受けているため、加齢に伴い水分が蒸散し、クッション性が低下して、衝撃を吸収しにくくなります。

5-3-3 脊柱の圧迫骨折(その1)

レントゲン画像
 

1 脊柱の圧迫骨折とは

脊柱(背骨)の圧迫骨折は、バイク、自転車の転倒やそこからの転落により、尻もちをついたときなどに発生します。発生のメカニズムとしては、脊椎を構成する椎体に縦方向の重力がかかり、一部の椎体が上下から押し潰されて圧迫骨折します。好発部位は、第11胸椎(T11)~第2腰椎(L2)です。

右図のレントゲン撮影側面像では、脊椎の椎体前方が、楔状に変形しているのが確認できます。骨粗鬆症が進行している高齢者の方の場合、軽微な追突事故であっても、その衝撃で、胸椎や、胸椎から腰椎への移行部で圧迫骨折を発症することがあります。このような場合には、損害賠償額の算定においては、素因減額が議論されることになります。

 

2 治療方法

骨を構成する組織は、毎日、破壊され、新たに形成されるという繰り返しが行われています。このため、圧迫骨折の場合であっても、時間の経過とともに仮骨が形成され、徐々に形状が戻っていきます。ただし、骨粗鬆症の方の場合、新たに形成される骨組織が減少しているため、圧迫骨折をした部位の回復は困難になります。

 治療方法としては、骨折部が安定していれば、入院をして、ギプスやコルセットで固定し仮骨形成を待ちます。骨折部位が不安定なときは、手術が選択されることになります。

また、椎体の骨折の程度が大きく、骨片が椎体の後方の脊髄や神経根を圧迫し、下肢の感覚を失う、力が入らないなどの症状があるときは、手術で圧迫された神経を解放します。骨粗鬆症の程度が大きく、数か月を経過しても骨癒合が得られず、疼痛が緩和しないときは、人工骨や骨セメントを骨折部へ注入する処置(下図参照)が施されます。

①骨折部分にバルーンの挿入→②バルーンを膨らませ骨折部を持ち上げる→③骨セメントを充填

3 脊柱の圧迫骨折における後遺障害のポイント

 (1)圧迫骨折を「脊柱の変形」と捉えた後遺障害等級表

脊柱の障害 .変形障害

65

脊柱に著しい変形を残すもの

82

脊柱に中程度の変形を残すもの

117

脊柱に変形を残すもの

上記の3段階で後遺障害等級認定がなされます。

 最も症例の多い、「脊柱に変形を残すもの」は、次のいずれかに該当するものです。

・ 脊椎圧迫骨折等を残しており、そのことがレントゲン撮影画像等により確認できるもの

・ 脊椎固定術が行われたもの

・ 3椎以上の脊椎について、椎弓切除術等の椎弓形成術を受けたもの

 脊柱の変形や運動障害で後遺障害等級が認定されるには、脊柱の圧迫骨折、破裂骨折が認められること、もしくは、脊椎の固定術が実施されていなければなりません。

 (2)圧迫骨折のレベル

圧迫骨折では、椎体の 25 %以上の圧壊が認められることが後遺障害等級認定ではポイントになります。日本骨形態計測学会・日本骨代謝学会・日本骨粗鬆症学会・日本医学放射線学会・日本整形外科学会・日本脊椎脊髄病学会・日本骨折治療学会からなる椎体骨折評価委員会は、「椎体骨折評価基準」を定めています。

同基準では、下図で示される椎体のA、C、Pの長さについて、C/A、C/Pのいずれかが0.8未満、またはA/Pが0.75未満の場合を椎体骨折と判定しています。また、椎体の高さが全体的に減少する扁平椎では、上位または下位の椎体と比較して、対象となる椎体のA、C、Pがそれぞれ20%以上減少しているときを椎体骨折とするとしています。

かかる基準以外にも、基準となる表と比較して、椎体の圧縮度をグレード0(正常)~3(高度の骨折)に分類し、グレード1以上を椎体骨折と判断する半定量的評価法(SQ法)も用いられます。当該評価法によれば、グレード1でも椎体骨折となりますが、後遺障害等級認定において等級が認められることは困難です。つまり、この程度の骨折では、「脊柱に変形を残す」とは判断されにくいということになります。

 3)骨折の新旧

骨粗鬆症の方の場合、骨密度の低下により、尻もちをついただけでも椎体の圧迫骨折を発症することがあります。このため、後遺障害等級の認定を行う自賠責損害調査事務所は、新たに生じた骨折か、それとも陳旧性のものかに着目します。陳旧性と判断されたときは、交通事故によって生じたものと言えませんから、後遺障害等級認定においては非該当と判断されることになります。

T1強調画像

T2強調画像

新鮮な圧迫骨折のMRI画像では、椎体は出血により他の椎体と違う濃度で描出されます。このように、椎体骨折の新旧の判断は、受傷直後のMRI画像で判断可能です。上記基準でも「エックス線検査で形態変化がない早期の椎体骨折の診断や椎体骨折の新旧の判定にMRI検査が有用である」と記載しています。

 上記画像は、第11胸椎圧迫骨折を発症された方のMRI画像です。これは新鮮骨折の画像ですが、左のT1強調画像では骨折部位が黒く描出され、右のT2強調画像ではその一部が白く描出されています。

5-3-4 脊柱の圧迫骨折(変形障害)

圧迫骨折を「脊柱の変形」と捉えた後遺障害等級表

脊柱の障害 .変形障害

65

脊柱に著しい変形を残すもの

82

脊柱に中程度の変形を残すもの

117

脊柱に変形を残すもの

(1)脊柱に著しい変形を残すもの

脊柱に著しい変形を残すものとは、XP(レントゲン)、CT、MRI画像により、脊椎圧迫骨折等を確認することができるときであって、次のいずれかに該当するものをいいます。

① 脊柱圧迫骨折等により2つ以上の椎体の前方椎体高が著しく減少し、後弯が生じているもの

「前方椎体高が著しく減少した」とは、減少した全ての椎体の後方椎体高の合計と減少後の前方椎体高の合計との差(x)が、減少した椎体の後方椎体高の1個当たりの高さ(y)以上のものです。

例)3つの椎体の圧迫骨折で、前方椎体高が減少した場合

3つの椎体の後方椎体高(上図のP)が120mm、前方椎体高(上図のA)が70mmのとき、その差は50mm(x)となります。

1つの椎体の後方椎体高は、120mm÷3=40mm(y)ですから、この場合、x>yとなり、上記①の要件を満たし、「脊柱に著しい変形を残すもの」に該当することになります。

 

② 脊柱圧迫骨折等により1つ以上の椎体の前方椎体高が減少し、後弯が生ずるとともに、コブ法(※1)による側弯度が50°以上となっているもの

「前方椎体高」が減少したとは、減少した全ての椎体の後方椎体高の合計と、減少後の前方椎体高の合計との差(α)が、減少した椎体の後方椎体高の1個当たりの高さの50%以上(β)であるものを言います。

 例)2つの椎体の圧迫骨折等で前方椎体高が減少した場合

2つの椎体の後方椎体高の合計が80mm、前方椎体高が55mmのとき、その差は25mm(α)となります。1つの椎体の後方椎体高は、80mm÷2=40mmであり、その50%は、20mm(β)となります。この場合、α>βとなりますから、コブ法による側弯度が50°以上であれば、上記②の要件を満たし、「脊柱に著しい変形を残すもの」に該当することになります。

1 コブ法とは、レントゲン画像(正面)から、脊柱のカーブの頭側および尾側においてそれぞれ水平面からもっとも傾いている脊椎を定め、頭側でもっとも傾いている脊椎の椎体上縁の延長線と、尾側でもっとも傾いている脊椎の椎体の下縁の延長線が交わる角度、側弯度を測定する方法のことです(右図参照)。

 上記のとおり、脊柱の後弯(脊柱を側面から見たときの弯曲)の程度は、減少した前方椎体高と当該椎体の後方椎体高の高さを比較することにより判定されます。また、脊柱の側弯(脊柱を正面から見たときの弯曲)の程度は、コブ法によって判定されます。

 

(2)脊柱に中程度の変形を残すもの

脊柱に中程度の変形を残すものとは、レントゲン画像等により脊椎圧迫骨折等を確認することができるときであって、次のいずれかに該当するものです。

① 脊柱圧迫骨折等により1つ以上の椎体の前方椎体高が減少し、後弯が生じているもの

② コブ法による側弯度が50°以上であるもの

③ 環椎(※2)または軸椎(※3)の変形・固定により、次のいずれかに該当するもの

A 60°以上の回旋位となっているもの

B 50°以上の屈曲位または60°以上の伸展位となっているもの

C 側屈位となっており、レントゲン画像等により、矯正位の頭蓋底部両端を結んだ線と軸椎下面との平行線が交わる角度が30°以上の斜位となっていることが確認できるもの

このうち、AおよびBについては、軸椎以下の脊柱を可動させず、被害者の方にとって自然な肢位で、回旋位または屈曲・伸展位の角度を測定します。

※2 第1頚椎(C1)を環椎といいます。

※3 第2頸椎(C2)を軸椎といいます。

左図のとおり、環椎と軸椎は脊柱の先頭の位置にあります。また、後頭骨/環椎、環椎/軸椎の2か所の骨間だけは椎間板が存在しません。

椎体と椎体をつなぐ繊維輪による連結と運動の制約がないため、自由で大きな関節運動ができ、頚椎の回旋運動可動域の1/2を、後頭/環椎、環椎/軸椎の上位頸椎で行っています。可動域が大きいということは、逆に障害を受けやすい不安定な部位とも言えます。

上記のとおり、環椎または軸椎は、頚椎全体による可動範囲の相当の割合を担っています。そのため、環椎または軸椎が脊椎圧迫骨折等により変形して固定となり、または環椎と軸椎の固定術が行われたために、環椎または軸椎の可動性がほとんど失われると、頚椎全体の可動範囲も大きく制限され、上記に該当する変形・固定となると、脊柱の運動障害(後遺障害等級8級2号)にも該当するケースが多くなります。なお、環椎または軸椎が変形・固定していることについては、最大矯正位のレントゲン画像でもっともよく確認することができます。

以上のとおり、脊柱に著しい変形を残すもの、および、脊柱に中程度の変形を残すものは、脊柱の後弯または側弯の程度により後遺障害等級が認定されており、変形だけが注目されるものではありません。

5-3-5 脊柱の圧迫骨折(運動障害)

脊柱の運動障害

脊柱の障害 .運動障害

65

脊柱に著しい運動障害を残すもの

82

脊柱に運動障害を残すもの、

レントゲン画像等で、脊椎圧迫骨折等または脊椎固定術が確認できず、また、項背腰部軟部組織の器質的変化も認められず、単に、疼痛による運動障害を残すにすぎない場合には、局部に神経症状を残すものとしての判断がなされるだけで、基本的には「脊柱の運動障害」としての後遺障害等級の認定は難しいと言えます。そこで、以下に、脊柱の運動障害が認められるための要件についてご説明します。

(1)「脊柱に著しい運動障害を残すもの」とは、次のいずれかにより頚部および胸腰部が強直したものを言います。

A 頚椎および胸腰椎のそれぞれに脊椎圧迫骨折等が存しており、それがレントゲン画像等により確認できるもの

B 頚椎および胸腰椎のそれぞれに脊椎固定術が行われたもの

C 項背腰部軟部組織に明らかな器質的変化が認められるもの

 

(2)「脊柱に運動障害を残すもの」とは、次のいずれかに該当するものを言います。

A 頚部または胸腰部の可動域が参考可動域角度(後記(3)の表において「正常値」で示される角度)の2分の1以下に制限されたもの

B 頚椎または胸腰椎に脊椎圧迫骨折等を残しており、そのことがレントゲン画像等により確認できるもの

C 頚椎または胸腰椎に脊椎固定術が行われたもの

D 項背腰部軟部組織に明らかな器質的変化が認められるもの

E 頭蓋・上位頚椎間に著しい異常可動性が生じたもの

※ 荷重機能(脊柱の支持機能)の障害については、その原因が明らかに認められるときであって、そのために頚部および腰部の両方の保持に困難があり、常に硬性補装具を必要とするものを6級5号、頚部または腰部のいずれかの保持に困難があり、常に硬性補装具を必要とするものを8級2号の運動障害として、それぞれ取り扱われています。

上記における「荷重障害の原因が明らかに認められる」とは、脊椎圧迫骨折・脱臼、脊椎を支える筋肉の麻痺または項背腰部軟部組織の明らかな器質性変化があり、これらがレントゲン画像等により確認できることを言います。

 

(3)脊柱の運動機能の評価および測定

① 頸椎について

部位・等級

主要運動

参考運動

頚椎

前屈

後屈

左・右回旋

合計

左・右側屈

正常値

60

50

70

250

50

65

10

5

10

35

5

82

30

25

35

125

25

117

可動域に関係なく脊柱の変形で認定されています。

[主要運動]
 前屈、後屈、左右の回旋

[参考運動] 
左右の側屈 

②腰椎について

部位・等級

主要運動

参考運動

胸腰椎

前屈

後屈

合計

左・右回旋

左・右側屈

正常値

45

30

75

40

50

65

5

5

10

5

5

82

25

15

40

20

25

117

可動域に関係なく脊柱の変形で認定されています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[主要運動] 前屈、後屈

[参考運動] 左右の回旋と側屈

③ 関節可動域の比較の方法

関節機能障害の認定に際しては、障害を残す関節の可動域を測定し、原則として健側の可動域角度と比較することにより、可動域制限の程度が評価されることになります。

しかしながら、脊柱の場合には、手や足のように左右がなく、「健側」と「患側」の対比ができないため、日本整形外科学会および日本リハビリテーション医学界により決定された「関節可動域表示ならびに測定法」と比較することにより評価されます。

 

④参考運動が評価の対象とされるとき

頚椎または胸腰椎の主要運動の可動域制限が参考可動域角度の2分の1を僅かに(おおよそ5°程度)上回るときに、頚椎または胸腰椎の参考運動が2分の1以下に制限されている場合には、頚椎または胸腰椎の運動障害として認定されます。

 

5-3-6 脊柱の破裂骨折

 脊柱の圧迫骨折は、椎体の前方壁が楔状に骨折するもので、多くは、脊髄神経には影響を与えません。というのも、脊髄は椎体の後方に位置しており、椎体の前方壁が骨折しても、これによって脊髄や脊髄神経を圧迫したりしないからです。

ところが、破裂骨折の場合には、椎体の前方の壁だけではなく後方の壁も圧迫骨折しているために、多くのケースで、脊髄症状(麻痺、シビレ、脚の痛みなどの重篤な症状)を示します。これらは胸椎下部~腰椎上部に多く発生します。

通常はレントゲン撮影とMRI検査が実施されています。骨の形が保たれていても、MRI画像において輝度に変化があれば、骨折と診断できます。また、複数の椎体骨折であっても、MRI画像では、陳旧性骨折なのか、新鮮骨折なのかを診断することが可能です。 

交通事故による脊柱の破裂骨折では、ほとんどが、緊急手術による固定が選択されることになります。下図は、左側が破裂骨折をしたもので、右側がこれに対して固定術が施されたものです。

また、骨粗鬆症が進行している高齢者の方の破裂骨折の場合には、経皮的椎体形成術が行われています。これは、骨折した椎体の中に骨セメントを注入して椎体を安定させるというもので、椎体の中に挿入するものには、セメントのほか、リン酸カルシウム骨セメント、ハイドロキシアパタイト(骨の主成分)のブロックなどがあります。

 

脊柱の破裂骨折における後遺障害のポイント

 (1)変形の程度

上記のように、脊柱の破裂骨折では、その多くが、受傷直後に緊急手術で固定されます。この固定術を受けた場合、後遺障害等級11級7号が、ほとんど認定されます。しかしながら、骨折の程度が大きい場合、「著しい変形」もしくは「中程度の変形」として、後遺障害等級6級5号ないし8級2号が認定される可能性がありますので、MRI画像等を精緻に検証する必要があります。 

(2)神経系統の機能障害

さらには、脊柱の破裂骨折の場合、脊髄損傷に伴う神経系統の機能障害の観点からもアプローチしなければなりません。脊柱の破裂骨折で固定術が実施される最大の目的は、脊髄損傷を最小限にすることです。逆に言えば、脊柱の破裂骨折をされた方は、脊髄損傷のおそれが高いということです。

したがって、術後の被害者の方に、上・下肢の麻痺、強烈な痺れ、上・下肢の疼痛、排尿障害など、重篤な脊髄症状が残存していれば、神経系統の機能障害で後遺障害等級の獲得を考える必要があります。機能障害の程度により、後遺障害等級9級10号、7級4号、5級2号が認定されています。膀胱機能障害は、後遺障害等級の併合の対象となります。

 

上記機能障害による後遺障害の立証に際しては、後遺障害診断書の他に、「脊髄症状判定用」の用紙を医師に提出し、肩・肘機能、手指機能、下肢機能、上肢・下肢・体幹の知覚機能、膀胱機能、日常生活状況について、検査と結果の記載をお願いしなければなりません。

排尿障害については、ウロダイナミクス検査(蓄尿から排尿までの間の膀胱、筋肉、尿流等を測定する検査)で立証することになります。上記「脊髄症状判定用」用紙の作成をお願いするに際しては、事前にこちらで脊髄症状のチェックを行い、また、日常生活状況について、被害者の方の職業上の具体的な支障を記載した書面を主治医の方に提示して、主治医の方に的確な記載をお願いすることが肝要です。 

5-3-7 腰椎分離・すべり症

分離症は、椎弓の一部である上下の関節突起の中央部が断裂しており、連続性が絶たれて、椎弓と椎体、つまり、背骨の後方部分と前方部分が離れ離れになった状態です。先天性のものと後天性のものがあり、日本人の5~7%に分離症があると言われています。しかしながら、大多数の方は、分離症があっても痛みもなく、通常の日常生活を続けているというのが実情です。

 ここで、交通事故に遭遇すると、交通事故受傷の衝撃が腰部に加わり、椎体が前方向にすべり、分離すべり症となるのです。すでに述べましたとおり、分離は事故前から存在したもので、それを原因としてすべり症となるのです。分離すべり症の多くは、L5に発生します。これの治療については、腰椎コルセットの装用、安静加療が一般的です。安定期に入ると、腹筋・背筋を強化するリハビリで腰痛の発生を抑えることになります。神経根圧迫による臀部、下肢の疼痛、膀胱・直腸障害等が出現しているときは、神経の圧迫を除去する椎弓切除術、脊椎固定術等が実施されることもあります。

CTで上下の関節突起の中央部が断裂しています

腰椎分離・すべり症における後遺障害のポイント

 (1)既往症の評価

事故受傷後のレントゲン検査で分離症の存在を知る被害者の方が圧倒的です。つまり、事故前にはこれといった支障もなく、普通に日常生活をしていたわけですが、画像での診断の結果、これが事故前に生じたものであると判断されれば既往症となります。この場合には、通常、椎弓切除術、脊椎固定術等の手術が実施されても、脊柱の変形で後遺障害等級11級7号が認定されることはありません。

 (2)痛みの評価

保存療法、手術にかかわらず、L5に疼痛を残す被害者の方については、3DCT、MRIで骨癒合の状態を明らかにして、痛みの神経症状を後遺障害診断書に記載してもらいます。その場合には、後遺障害等級14級9号が認定されることが多いと考えられます。 

  • 5-3-8 後縦靱帯骨化症(OPLL

      左図が後縦靱帯骨化で、右図が黄色靱帯骨化を示しています

椎体の背中側で脊髄の前側には、後縦靭帯が縦走し、椎弓の前側で脊髄の背中側には黄色靭帯が縦走しています。これらの靱帯で椎体骨は補強され、安定しているのです。

後縦靱帯骨化症とは、脊髄の前方に位置する後縦靱帯が肥厚し、骨化した結果、脊髄の走行している脊柱管が狭くなり、脊髄や脊髄から分枝する神経根が圧迫されて知覚障害や運動障害などの神経障害を発症する疾患です。後縦靭帯骨化症は頚椎に多く、黄色靭帯骨化症は、胸椎に多い疾患です。しかしながら、交通事故で後縦靱帯が骨化することはありません。

 

後縦靱帯骨化症 OPLLにおける後遺障害のポイント

(1)後縦靭帯骨化症の既往症がある被害者の方のほとんどは、「事故前に症状がなく、通常の日常・社会生活であったが、事故直後から脊髄症状が出現、就労不能となり、手術が必要になった」などと事故後の症状経過についてご説明されます。この場合、保険会社は事故との因果関係を否定し、元々の疾患と主張して譲りません。

 被害者の方が納得ができないのは理解できますが、レントゲンやCT画像で後縦靱帯の骨化巣が確認されたときは、後縦靭帯骨化症の既往歴を否定することはできません。弁護士において保険会社と粘り強く交渉をしたとしても、かなりの素因減額は免れません。

また、事故発生状況によっては、14級9号の後遺障害等級認定がありえますが、それ以上の等級の認定は困難であると考えられます。仮に交通事故を契機として後縦靭帯骨化症の手術をしたとしても、入院・手術の治療費、入院雑費、この間の休業損害は否定される可能性が高いと思われます。そもそも罹患していた疾病ですので、これについてはやむを得ない部分があります。

 (2)上記のとおり、保険会社から治療費の支払いは期待できませんが、厚生労働省は、後縦靱帯骨化症を公費対象の難病と指定しており、一定の条件の下、治療費は助成されます。詳細や手続は、以下のサイトをご覧ください。

http://www.nanbyou.or.jp/entry/98

5-3-9 腰部脊柱管狭窄症

脊髄が走行している脊柱管のトンネルが狭くなり、脊髄や神経根が圧迫される疾患を脊柱管狭窄症と言います。

狭窄の原因は、先天性の骨形成不全、後天的なものとしては椎間板ヘルニア、分離・すべり症、加齢にともなう椎間板、椎体、椎間関節や椎弓の退行性変性、軟部組織の肥厚によるものなどがありますが、負担のかかる腰部に多く発症しています。いずれにしても、交通事故外傷で脊柱管が狭窄することは基本的にありません。

神経が圧迫されることで、狭窄のある部分の痛みや、下肢の痛み、しびれなどが出現します。腰部の脊柱管狭窄の特徴的な症状として、歩いたり立ち続けたりしていると、下肢に痛みやしびれが出て歩けなくなり、暫く休むと、症状が無くなるということを繰り返す「間欠性跛行」があります。

神経根が障害されると、下肢や臀部の痛み、しびれが、馬尾神経では、下肢や臀部にしびれ・だるさ感があり、頻尿などの排尿障害や排便障害をきたすこともあります。

頚部や胸部、腰部におよぶ広範脊柱管狭窄症では、四肢や体幹の痛み、しびれ、筋力低下、四肢の運動障害、間欠性跛行や排尿障害、排便障害をきたすことがあります。

脊柱管狭窄症の診断はMRI画像で行われています。各椎体の後方には、日本人の平均で前後径、約15mmの脊柱管があり、脊髄はこの中を走行していますが、基準として前後径が12mmになり、上記のような症状が出現していれば、脊柱管狭窄症と診断されます。

脊柱管狭窄症の約70%は保存的療法で改善が得られています。投薬による疼痛管理がなされ、温熱や電気による物理・運動リハビリが実施されています。神経周囲の血流障害で症状が強くなることから、血管を拡張し、血流量を増やす薬剤の投与も実施されます。

脊柱管は腰が反ることで狭くなりやすいため、前屈位を保持する装具を装着することや、運動療法による姿勢の改善や腹部の筋力強化、また、ストレッチなどを行うことで症状を改善させていきます。

保存療法では症状が改善しないとき、症状が急激に進行中のとき、馬尾神経が圧迫され、膀胱・直腸障害の出現で、日常生活に大きな支障をきたすときなどは、手術適応となります。

 

腰部脊柱管狭窄症における後遺障害のポイント

(1)本当に脊柱管狭窄症なのか

通常、被害者の方のMRI画像所見は、変形性脊椎症に類似しています。また、訴えられる症状についても、脊髄の圧迫が主であれば脊髄症を、神経根の圧迫が主であれば神経根症を、さらには、両方の症状を示すこともあり、この点でも、変形性脊椎症に酷似しているのです。

しかしながら、臨床の現場では、緻密な検証がなされないまま、「脊柱管が狭窄気味かな」という程度で脊柱管狭窄症と診断されているのが実情です。したがって、「本当に脊柱管狭窄症なのか」をまず検討する必要があります。

 

(2)素因減額

冒頭で述べたとおり、通常、脊柱管狭窄症は交通事故を原因として発症するものではありません。事故前から症状があって、本当の脊柱管狭窄症と診断され、通院歴のあるような被害者の方の場合には、一定の素因減額がなされるのはやむを得ないといえます。

 

(3)認定される後遺障害等級について

脊柱の固定術等が実施されたときは、脊柱の変形等で11級7号が認定される可能性があります。脊柱の可動域が2分の1以下程度まで制限されていれば、8級2号が認定される可能性があります。手術を行うほどではなく保存療法にとどまるものについては、12級13号ないしは14級9号の認定がなされることが多いと思われます。

 

(4)注意点

脊柱管狭窄症について、損保料率機構調査事務所は、すべての治療先に症状照会を行い、自覚症状や他覚的所見などから、事故との因果関係を否認して等級を認定しない例が見られます。当事務所では、後遺障害等級申請の段階で、先回りして上記の症状照会で問い合わせされるような内容(症状の推移など)について医師に書面の作成をお願いし、後遺障害等級申請書類とともに提出しています。